☆歴史的な傾向
 オカルトが一部の研究者の多少なりとも科学的な研究の題材に登ったのは、19世紀中葉から後半にヨーロッパやアメリカで多くの霊媒が排出し、世間を驚かせてからである。それらの研究団体として有名なものに英国心霊協会がある。これらには科学界を含めて各界から相当に著名な人々が集っていた。たとえば作家のコナン・ドイルノーベル賞授賞者のルクス卿?などである。当時からいい加減な教義をもった新手のオカルト団体が多かったのであるが、英国心霊協会には、そのような真偽の怪しい教義による説明に納得しない、多少なりとも合理的・分析的な考えのできる人達が多くいた。


◎19世紀後半、有名な霊媒ダニエル・ホームの実演を見たナポレオン三世は、伴席していた科学者にこれは電磁気によるものかと聞いたという。当時は元素の周期律表が発見されるかされないかの時代であり、電磁気の正体や性質などは、よくわかっていなかった。
 その後、今日に至るまで科学的知識は飛躍的に増大した。つまり、電気の正体が電子の流れであることが分り、電磁方程式も発見され、原子が原子核とそれを回る電子によって構成されており、原子核は陽子と中性子によって構成され、さらに陽子や中性子クォークによって構成されていることが分った。しかし、初期の科学的な心霊研究家が期待したように、心霊現象に関係する物質や粒子などは今に至るまで、まったく発見されていない。
 現在の超心理学、心霊学者たちは彼らの研究テーマを「もう一つの科学」なり、「未来に認知されるだろう新しい科学」と主張することが多い。たとえば、変性意識(altered states of consciousness)で有名な超心理学者チャールズ・タートは著書『PSI』(1977)の最後の部分で、「何十年か後には、サイの理論的解明ばかりか、その実用技術までもが発達しているかもしれない。それは、少なめに見積もっても核エネルギーの実用化に匹敵する革命的事件になる可能性があるだろう。」と述べている。Newsweek誌(日本版)は1991年5月2/9号のscience欄で「超能力を科学する」という記事を掲載していが、その最後で、超理学者のクックは述べている「一○年もすれば、いま『異常』とみなされている多くの事柄に別の名前がつけられ、当たり前のことと考えられるようになるだろう」と言っている。また、臨死研究のメルヴィン・モースは著書『臨死体験 光の世界へ』(1991)の中で「こう予言してもいい。今から二十年もすれば、より多くの心理的過程が、脳内に解剖学的に位置づけられるだろうし、人間の霊と科学的才能が再び統合されるのを目のあたりにすることになるだろう」と述べている。確かに前半はあたっているだろうが、後半は楽観的すぎる。はっきり言えば、これは百年以上も前から全く状況は変っていないのである。つまり、19世紀の「黄金の夜明け団」から現代の超心理・オカルト研究者に至るまで、常に「次の時代には超能力なり魔術なり、あるいは心霊現象なりが広く世間に認知され、人間の一つの技能として使われるようになる」との希望的な観測がなされてきたが、それは常に人類滅亡を予言してきた予言研究者や宗教家の予言と同様に外れつづけてきた。
 ついでに言えば、この傾向は1950年代以降に出現した新手の神秘研究であるUFO研究にも、歴史は浅いにもかかわらず、まったく同じことが言えるのは面白い。彼らはいつも「次の時代にはすべての人々が、UFOと宇宙人が存在し、かつ地球に来ていることを常識として知るようになる。」とか「UFOに乗った宇宙人が人々の前に公然と姿を現す日は近い」とか言っていたし、コンタクティーとかチャネラーとか自称する者たちの中には、宇宙人が地球人の前に公然と姿を現す期日を予言する人も多かった。これらの予測が当ったことは一度もないことは言うまでもない。


☆ESPはいつ科学となるか?
 前に述べたように、ここ百年以上、一部の研究者の期待とは裏腹に霊魂やESPは一向に広くは認められず、科学の一分野にもなっていない。それではいつそうなるのだろうか。これを考えてみよう。
 一つ仮想的な話を考えてみよう。アイザック・ニュートンは、ロンドンで流行った疫病を避けるため、ウールズソープに疎開していたときに、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を考えたという。この逸話の信憑性はここでは重要ではない。私が考えてみたいのは、天才ニュートンにロンドンなどの都市部で流行った疫病の原因を聞いてみた場合である。はたしてニュートンに原因が正しく推察できただろうか。現在の知識からすれば、病原性で感染力の高い細菌かウィルスのせいだろうと推測されるが、当時はそんなものは発見されていなかった。人間の目に見えるより遙かに小さい、生物がいて、それが体内で繁殖することにより病気になるなどと想像できただろうか。
 彗星のせいかもしれないし、ジョン・ディーのような魔術師のせいかもしれない、悪霊のせいかもしれない。当時の知識では、これらの代替案より、微生物の体内増殖という仮説が合理的だとは言えないだろう。仮に、この仮説が想像できたとしても、実証することは当時の科学技術ではほぼ不可能だったことは間違いない。単なる憶測にしかならないのだ。微生物による病気ということが完全に証明されるのは、微生物を直接観察できる顕微鏡の発達を待たなければならなかった。
 私は全く同じことがESPと多くの超常現象にも当てはまると思う。ESPなり霊魂なりが、物理学的な機械でもって観察・測定されるような時代にならないと、科学の一分野としても広く認められないし、疑り深い多くの人々を納得させられないだろう。