ジョン・キールはUFOについて1970年という早い段階から重要な指摘をした。まず、UFO現象は他の超常現象を伴っている例が多いこと、UFOと宇宙人は昔の妖精や天使、悪魔の遭遇伝説と極めて似ていること、UFOと宇宙人が固体の物質として実在する明快な物証はあがったことがなく、超心理的現象なのではないのかということである。キールの『モスマンの黙示』は、日時が前後していて非常にわかりにくいが、UFO関係のオカルトの典型例を数多く示しているので、興味のある人にはぜひ勧める。

◎1998年9月1♂日 『モスマンの黙示』ジョン・A・キール著、植松靖夫 訳 国書刊行会(1984)
 リリーの『サイエンティスト』に続いて、ジョン・A・キールの『モスマンの黙示』を読む。コリン・ウィルソンの著作によく紹介されていて知った本だ。キールはヨタ話を集めた本も出しているので、期待しないで読む。
 しかし、いきなり読ませてくれる。
 話はウエスト・バージニア州の辺鄙な村のある家に、雨の深夜、ヒゲを生やした黒ずくめの服装を着た大男が電話を借りにきたことから始まる。家の夫婦はあまりの異様さに、電話を貸すのを断り、ドアを閉めてしまう。そして、その異様な体験を近所の人々に言いふらした。その三週間後、その夫婦はオハイオ川にかかる橋が落下した事故に巻き込まれて死んでしまう。人々は、あの夜訪ねてきた男は、ベルゼブル(聖書に出てくる魔王の一人)であり、その夫婦に災厄をもたらしたのだと噂しあったという。
 ところが、なんとその魔王はキールであり、自動車が道の脇に落ちたので、牽引する車を呼ぶために電話を借りにまわっただけだったのだ。(オカルト話の大部分はこんなもんだという好例だろう。)
 全体的に押さえたトーンなので、好感がもてる。これを読むと「Xファイル」のシナリオが良く理解できるように思えた。本の題名である「空飛ぶモスマン」だけでなく、ブラックメン、UFO、電話の謎の混信、未知のテレパシーや予感、共時性など、なんでもござれだ。今まで「Xファイル」のシナリオは、いい加減にいろんな事を考えて出来が悪いと思っていたが、「現実の超常現象の報告」はかなり多様なのだ。
 しかし、いたずら、詐欺師、ほら話、変質者、妄想、ただの偶然などを寄せ集めて、超常現象だと言っている疑いが拭いきれない。キャトル・ミューティレーションも取り上げて、超常現象だとしているが、これはキールの信じやすさを示す好例だと思う。キャトル・ミューティレーションについては『ハインズ博士「超科学」を切る』や『トンデモ超常現象99の謎』には、はるかに常識的で説得的な説明がなされている。
 キールの報告を読む限り、UFOと電磁気現象は関連している印象を受ける。(早稲田の火の玉学者、大槻先生のプラズマ説に有利だ!)
 また、ブラックメンはただの妄想やいたずら、変質者だけでなく、盗聴を含んだ政府機関の大規模な撹乱工作のような印象を受ける。キールは電話の盗聴や切断、郵便物の妨害や入れ替えという被害を受けたと書いているが、こんなことは超常現象で起こるはずはない。UFO運動は情報公開を求める反空軍運動になったから、それがソ連などに利用されることを恐れたCIAあたりが妨害に出たんだろうと想像する。


(付記)訳者の植松靖夫はあとがきで、現代科学の限界が認識され、もうすぐ超常現象の研究のようなことが科学になるといっているが、これは毎度のことだ。
 そのうえ、解説が並木伸一郎によってなされているが、彼はキールの意見を無視し、典型的なUFO信者の解釈、つまりモスマンが宇宙からきたUFOが放ったエイリアンアニマルだという説を出している。この浅薄な解釈には呆れた。そもそも、モスマンは物理法則を無視した飛びかたをしていたことが理由のひとつで、キールはその物理的存在に疑問をもったのだ。そして、並木はモスマンに似た怪物の報告、たとえばランタンをもって歩くヨーウィー(雪男、ビッグフットの親戚)などを並べているが、信憑性にまったくこだわっていない様子で、怪しげな報告を片っ端から信じる知性を感じた。



(後記)その後、2003年某日に読み返してみた。感想として、これは「UFO」超心理現象説を展開した名作であるということだ。とはいえ、やはりアメリカ軍の新兵器実験の隠蔽や政府機関の謀略を背景として、それに思いこみや偶然が絡み合って、多くを奇妙な出来事を引き起こしているという印象を拭えない。それを差し引いても、本書には電磁効果が人間に与える影響や予知やシンクロニティーの逸話に満ちている。そして、UFOや超心理現象を引き起こす実体についても考察しており、もしかすると、いやもしかしなくとも歴史的な名著なのかもしれない。たとえば、UFO搭乗員がこちらの多くの人間に気づいていないように振る舞う例が、多くの霊の報告と似ている点、霊媒のエネルギーを吸収して生きながらえる異世界の霊的な存在の推測など、鋭い指摘ばかりである。
 この数日後、偶然B級映画『血を吸う宇宙』をビデオで見た。なんと、この『モスマンの黙示』に出てくる話からとったようなシーンが非常に多くあり、妙なシンクロニシティを感じた。むろん、『血を吸う宇宙』が『モスマンの黙示』をパクったのだが。



○2003年8月2〜日 『宇宙からの啓示』ジョン・A・キール著、植松靖夫 訳 ボーダーランド文庫(1984)
 帰省してブックオフで見つけた。与太話の寄せ集め風だったので、期待しないが、100円だったので購入。どうもキールは科学に対する認識が不正確で、あまり自然科学に詳しくないことが判明した。オカルティストにありがちな反ダーウィニズムだし、古代文明にも好意的である。しかし、醒めた目と熱い心が健在だった。
 ところでキールとはいったい何者なのだろうか。客観的にはオカルトジャーナリスト・作家と位置づけられる。れっきとした博士号を持ったUFO研究者ジャック・ヴァレーの本を読むと、キールについて独創性は認めるものの余り評価ていなさそうに書いているが、その原因がよく分かった。キールはヴァリコフスキーの『衝突する宇宙』を評価しているし、返す刀で既存の学会を批判しているので、明らかに学者ではない。
 しかし、私はキールコリン・ウィルソンなどよりずっと評価する。ウィルソンは、当世、最大の博学なオカルティストだが、皮相的な科学知識や哲学知識で論理武装することに、私はへきへきしているが、キールはそのような余計な理論武装は比較的に少ない。かわりに現地へ行き取材するという実証性・文献調査などの面が(他のオカルティスト達に比べれば)印象に残る。